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[1] コンセプト

本書は,大学入試で出題される「整数」に関する問題が自力で解けるようにすることを目指します.
考えてみると,「整数」とはまた凄い単元名ですね.だって,数の種類の名前がそのまま入試出題分野の名称になるっていうのは,他に類を見ませんから.(まあ,「複素数と複素数平面」ってのもありますが・・・)
ただ1種類の数だけで1つの単元が構成されてしまう・・・それを可能にしているのは,他の数にはない整数固有の特性の豊富さです.つまり整数とは,数の特性だけをテーマとする,ひじょうに原始的な分野なんです.また,整数の特性,基本は,実に美しく体系的に出来ています.よって,攻略の仕方はとっても明快:
ありのままの整数の特性を,シンプルに学ぶ.
このような,きわめて普通の学び方こそが,この学び方だけが,最良の道です.
と,ここまでに書いた事情を知らない生徒,場合によっては指導者の間に古来よりはびこる迷信が,例の,「整数問題はヒラメキだ!」という類いのものです.どういう訳だか「整数」という単元にだけ「問題」という言葉を添えちゃったりして(笑).まるで「問題の解き方を覚えることが勉強だ」と言わんかの響き満載です.原始的で,基本が全てと言っても過言ではない分野ですから,これでは上手くいくはずがありません.で,上手く行かない理由を“運”とか“センス”に押し付け,しょうがないから「“ヒラメキ”が空から降ってくるのを待つ」かのような姿勢.これが,世間の受験生の大多数がハマり込んでいる落ちる学習法です.
問題解法以前の,学理そのものを普通に,しっかりと学ぶ.それにより,問題は自ずと解けるようになる.これが,合格うかる学習法です.こうした基本に根差した学習の蓄積が,身に付き,無意識の領域に沈んだ後,目の前の問題を解こうとしたとき地の底から湧き出してくることを,世間では“ヒラメキ”というよくわからない言葉で呼んでいるんです.(これは,整数に限らず数学全般,延いては学問全般について言えることです.)
もちろん本書は(筆者の書くものは),基本からコツコツ学んで行く,合格る学習法の方を採用しています.「基本とかかったるいから,そんなのスッ飛ばして 手っ取り早く問題解けるようにしてくれや」と願う人には,本書は(私の全ての著作は)全く適しません(笑).
さて,どうですか?やる気は満々ですか?「ん~~」と躊躇している人に向けて,耳寄りな情報を提供しておきます.
受験が近づいて来て急にやる気を出した人(笑)が,ある分野を学ぼうとする際よくぶち当たる壁が,前提となる他分野の知識の欠落です.(筆者も,自分が疎いコンピュータ関連の事を調べるのに,その説明文の中にまた知らないカタカナ単語が 3 つくらい現れてよく挫折します(苦笑).
ところが前述した通り,整数という単元の考察対象は,整数という 1 種類の数だけ!メチャメチャ狭いんです.そしてなにしろ「原始的」ですから,極論すれば,「整数」だけで1つの学問を形成している,とすら言えるのです.よって,前提として知ってなきゃいけない事柄が極端に少ない訳です.
さらに追加で 1 つ.これまで勉強サボってきた人にとってのもう一つの難敵が「計算」ってやつでして・・・習得にものすごく時間と忍耐を要します.ところが「整数」って,方針がわかっていざ解答を書き出すと,けっこうあっという間に「完答」まで辿り着けちゃう,要するに,計算量が少ないんです(「場合の数・確率」と一二を争います).
以上の 2 点より,「整数」においては,今現在数学が上手に学べてないなと嘆いている人でも,心機一転,特定分野攻略成功体験ができる可能性が比較的高いと言えます.また,それを通して数学全般に対する正しい学び方をマスターする絶好の機会,突破口ともなり得るのです.
ハイ.気合い,入りましたね.では・・・行きましょう!
計算量が少ないといっても,展開とか因数分解という最低限のことは正しくできてくれていないと困ります.そこで,『準備編』において「整式」に関する基本がチェックできるようにしてあります.
なお,数学全般の習得には,計算力は不可欠,というか,ハッキリ言うと最重要です.(なので私は「計算」を主体とする本を出版しています.)
本書では,一部,数字Bの数列(数学B)などを融合した問題も扱います.そのための前提となる分野に関する基本を,『準備編』としてまとめておきましたので,適宜活用して下さい.ただし,本書の主眼はあくまでも「整数」ですので,「数列」に関しては深入りしないように配慮しています.よって,ある程度は数列が理解できていることを前提として,数列との融合問題を扱っています.
さらに,ごく一部では数学III極限と絡めたものも現れますが,その際には理系限定であることを明記しますから御安心下さい.
あと,数学の全てにおいて,「論理的に考えること」は必須ですから,『準備編』で「集合・論理」もおさらいします.
「整数」と同様,そもそも根本となる基本原理がわかっていないことには,問題をいくら解こうが,「この問題で何を学んでいるか」が把握できず,学習内容が定着しないで消えて行ってしまう分野の代表が,「数列」「ベクトル」(いずれも数学B)です.
一方,数学の中にも ,問題を解く練習,問題演習を積み重ねて行けば,ある程度は出来るようになる分野もあります(例えば微分・積分とか).(ちなみに,そのどちらにも当てはまらないものとして,「確率」が挙げられます.これについては拙著で.)
あ,今述べてるのは,全てあるレベル以上を想定した場合 の話です.そうでない場合,入試における数学は,問題演習の積み重ねにより解き方のパターンを覚えていく方法論でもなんとかなってしまうことも,ままあります.
数学Ⅲの「微分積分極限」は,いろんな意味で「整数」と真逆です.他分野の予備知識・計算量ともガッツリあります.逆に,そこさえどうにかなっていれば,多少下手くそな勉強法でもある程度は騙し騙しできるようになったりもします.もちろん,このような分野と言えども基本をベースにして学んだ方がはるかに結果が実り多きものになることは言うまでもありませんが.
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[2] 構成

以下で用いる「ITEM」とは,ある内容に関するひとまとまりの項目のことを言います.
各見出しの内容は,概ね次の通りです.
問題のの前で,考え方の糸口,目の付け所を
問題のの前で,解き方の方向性,大雑把な流れを
問題のの前で,解答用紙には書かないけれど
着想を得るために行う作業
問題のに先立ち,そこで用いる根本的な考え方
試験で,実際に解答用紙に書くこと.
補助説明は,赤字の吹き出し
とは違った解き方.試験での「答案」という体裁を取らず,
内容を大雑把に書いていることが多い.
における主要な考えをより詳しく
に対するちょっとした疑問を解消
当該問題のからは少し外れる関連事項
関連をもつさらに高度な内容.が付されている場合は,輪を掛けて高度
文字通り:重要なこと
常套手段的内容.ただし,例外もあるかも
陥りがちな過ち,盲点の指摘
内容に厳密性を欠いたり,前提とする条件に無理があったり,
申し訳なさを感じる際に
文字通り:具体例
例えば,・~・・~~・・・, とあれば,
ここまででは「終了」という意味
ハイレベルな内容
必須度の高い内容
必須度の低い内容
理系生限定(数学Ⅲ範囲)の内容
定義,基本原理(的な)内容.完璧に頭に刻み込む.
定理,問題解法(的な)内容.結果を記憶したい.
上記を入試で証明抜きに使ってよい.
(だたし,定理の証明そのものが要求されている場合は別.)
たぶん,上記を入試で証明抜きに使ってよい.
上記を入試で証明抜きに使ってよいか微妙.状況次第
上記を入試で証明抜きには使えないのが原則

に付すマーク: が省かれている場合は,「当然使っていいよ!」という意味です.
この,入試で 証明抜きに使ってよいか否かという問題は,実にデリケートかつナアナアであり・・・採点官の“趣味”によります.筆者が決めることではありません(笑).全てケースバイケースですが,概ね次のような傾向があると思っておいてください.
要は,問題全体の中で占める比重によっての判断となります.扱いに迷いそうなものについては,マーク以外に筆者の見解を文章でも添えましたので,“参考”程度に頭に留めておいてください.
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[3] 使い方

おおよそ,次の順序に進めるのが標準的な使い方です.
  • 『準備編』に,必要に応じてサッと目を通す.メインはあくまで「整数」なので,ここに時間を掛けず,整数を学習しながら,必要に応じて戻って参照すればOK.
  • 『基本編』を,けっこうしっかり読み進める.学校等で既習であるはずなので,一応「知ってはいるな」ということがほとんどのハズ.ただし,読むだけでは自分が理解できているか否かを自分自身では判断できないもの.そこで・・・
  • 『基本編』を読みながら,各ITEMからリンクしている『基本確認問題』を並行して解いてみる.で,理解しにくいときは対応する『基本編』に戻る.
  • 『実戦問題』に挑戦する.初めから全て自分で解ける・・・訳がない(笑).取り組み方は,だいたい次の通り.
     いちおう自力で解こうとしてみる.
    →無理なら,使えそうな『基本編』『基本確認問題』のITEMを探す.
    →それでも無理なら,を見る.
    →それでもなお無理なら,等を読む.
    →それを理解し自分の手で解答を書く.
    →それでも途中で詰まる所があれば,それがあなたの弱点.
    →そこを補強し,解答の全てが自力で書き切れるようにする.
    これを,全問題に対して完璧に行う・・・のがベストだが・・・たぶんシンドイ(笑).時間・体力と相談しながらやりくりするのが受験生.
  • 『本書のその先』
    実戦問題で扱うものの多くが“定番”と言える問題です.もちろんそれ自体が頻出であり,また,それを元にして少しヒネッたり融合したりすることで,多くの入試問題が作られます.したがって,本書で必須事項をしっかり学んだ後なら,テキトーに問題集なり過去問なりで“雑多な”問題演習を行った際,本書で得た基礎力をとして,しっかりと体系的に整理された知識が蓄積されて行くはずです.
本書は,目指すレベルやお急ぎの度合いに応じて学べるよう,などの付加情報や『実戦問題』に対して,取捨する判断材料として次のマークを付しています.
レベルについて
トップ大学を目指す人限定のハイレベルなものにはを付します.まあ気合いでチャレンジしてみるのも若者の特権ですが,目標に応じて取捨してください.さらにと印が 2 つ付いたらヤバイぞ超難解!そして 3 つ付いたら・・・入試レベルを超える,入試レベルを無視する(笑)ことすらあると覚悟するべし.
必須度について
特に高いものには,比較的低いものには.急いで進めたいのか,じっくり進めるのかによって取捨.
あ,これらはあくまで一つの目安です.あんまりカチカチに考えないでくださいね.
これら 2 種類のマークにおける優先度は,「レベル」を「必須度」より上位に.例えばある項目に「」と付いている場合,トップを目指す人には必須だが,そうでない人は読み飛ばしてよし,ということ. 「」は,トップを目指す人限定.その人にとってすら必須ではない,の意.
上記が付されたものをやるとしても,決してそこで学習が滞らないように!いったん棚上げ・先送りしてするなどして,とにかく先へ進むのが賢い数学の勉強法です.
また,数学Ⅲまで学ぶ理系生限定の内容にはマークを付してあります.

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[4] 記号・文字

本書では,以下の数学記号を特別の断りなしに用いる.
複素数全体の集合. 手書きでは
実数全体の集合.手書きでは
有理数全体の集合.手書きでは
整数全体の集合.手書きでは
自然数全体の集合.手書きでは
「要素 が集合 に属する」
「集合 が集合 に含まれる」
区間 の閉区間
区間 の開区間
区間 の区間
maximal の最大値
minimal の最小値
「ゆえに」
「なぜならば」
「換言すれば」
と呼ぶことにする.
「証明終わり」
点 P の 座標 ( 座標 of P)
順序を区別しない集まり=組合せ,集合.
順序を区別する集まり=順列,組. .
数列 高校教科書では だが
even偶数
odd奇数
を割り切る.
で割った余りが等しい
の最大公約数
記号「 」は,「開区間」「順列」「最大公約数」の 3 通りの意味で使われる.文脈の中で,どの意味かが混同されそうな場合には,「区間 」,「組 」,「最大公約数 」などと言葉を添えるべし. 最大公約数に関しては,その場で「 と表す」などと誤解の生じない記号を宣言をして使うのもよい.

本書の主役である「整数」を表す際,次のアルファベットがよく使われる.もちろん,絶対的な決まりではないが.






数学では,次のギリシャ文字をよく用いる.
アルファベータガンマデルタイプシロンオメガ

ラムダパイタウシータファイプサイ

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